12人の怒れる男たち

  

 

 



優しくて気の弱い大多数


自信過剰、厚顔無恥、冷酷でエゴイスチックで傲慢、
この戯曲でいえば、3番や10番のような俗物たちが、
思えば私たちの国にどれほど跳梁跋扈していることだろうか。

たとえ全体の中の少数であっても、このての人物が大声でわめき散らすと、
大部分の、気の弱い、恥ずかしがり屋で、事を荒立てるのが嫌いな、
温和な人々は、溜息まじりに黙り込んでしまう。
悪い事に、この俗物共に気に入られようとする、気の小さいのが現われたりする。
そして、ほんのひと握りであるはずのこの連中の意見が、結局は全体を代表するようになってしまうことが、ままある。

そんなことを許してはならない、そのためにこそ民主主義という仕掛けがあるのだ、
というメッセージを、「十二人の怒れる男たち」は感動的に伝えてくれる。

大声を出すことも遠慮がちな、平和な日常をなにより大切に考えている人々が、
そのおだやかな生活を守るために、お互いに心を通い合わせ、積極的に発言してゆくことが、
遂にはこれらの、生命の尊厳、人権の尊さについてひとかけらの思いもいたさないような
愚かな人間たちの心までも、動かしてしまうのだ、
だからこそ人間は素晴らしいのだ、ということを、この戯曲を通して、現代の日本人はもちろん、アメリカ人も、
極めて今日的な課題としてうけとらざるを得ないだろう。

(やまだ・ようじ 映画監督)