あわて幕やぶけ芝居
記憶という遺産
先の戦争が終わって70年が経とうとしている今、何故「東京大空襲」なのか?
何故、若い世代にそれを見せたいと思うのか?どうしてだろう?自問自答する。
私の世代の場合、父や母の戦争体験がその理由のひとつだと思います。
私も子どもの頃に何度かその話を聞かされました。
戦争末期の“根こそぎ動員”で30歳を超えて再招集された父の、模擬爆弾を抱えて
戦車のキャタピラに飛び込む訓練の絶望感。
母親の、3人の姉たちを抱えての1年に渡る壮絶な“満州引き揚げ体験”。
父親の世代にどんな事が起ったのかを知りたいをいう気持ちが私にはありました。
それは言わば親の世代の体験を、記憶という形で相続した“遺産”のようなものです。
記憶という遺産。
その後、演劇という分野で生きるようになった私は、父親世代のとてもたくさんの人たちの物語に触れることになりました。
どんな子ども時代だったのか?どんな青春を送ったのか?今、どんな事を思っているのか?
父や母だけでなく、多くの父や母の世代の人々のつらい戦争の体験を知ることによって、私は多くの豊かな記憶を相続する事が出来ました。
今では、そんな見知らぬ、名もない人々の眼を通して世界を見、
それらの真剣な物語を通して世界を理解出来るようになったのです。
演出 杉本孝司